本当のデータは隠された? プロペシアの副作用に関するロイターのレポートについて

男性型脱毛症(AGA)の治療に使われるプロペシア(薬剤名フィナステリド)は副作用の心配がほとんどない薬とされています。実際アメリカのメルク社がFDA(日本の厚生労働省のようなところ)の承認を受ける前に実施した臨床試験では副作用の発症率が3.8%だったそうです。副作用の内容自体も勃起不全や性欲減退など比較的軽いものしか確認されておらず、しかも服用を中止すれば「消えてなくなる」程度のものだとされてきました。

ただ、この臨床試験の内容自体が「大人の都合」によって操作されていたとしたら、もちろんこうした安全神話はそれこそ消えてなくなってしまいます。今日、話題にするのはロイター通信が2019年に行ったスクープについてです。そもそもハゲ・薄毛界隈の人間にとっては極めて重要な意味を持つロイター通信のスクープが存在したこと自体をあなたは知っていたでしょうか?
 
 

ロイター通信の記事からわかること
●メルク社が公表している副作用のデータは不正確なものであると非公開の裁判資料によって明らかになった
●そもそも服用停止後も副作用が続く可能性があることをメルク社は認識していたにも関わらず、そのことを意図的に隠していた疑いさえある

 
 

ロイター通信のスクープ

ロイター通信のスクープは「Court let Merck hide secrets about a popular drug’s risks」というタイトルが付けられてネット上で公開されています。このタイトルをそのまま打ち込んでもらえれば、記事にたどりつけるはずです。記事の目的はアメリカの裁判における情報公開のあり方に疑問を投げかけるものです。裁判官の判断によって公開されていない情報が第三者(商品の場合は消費者)に不利益を与えているというのが、その主張です。この主張を裏付ける具体的な根拠として示されたのがメルク社が開発した男性型脱毛症の治療薬プロペシアをめぐる裁判の資料(副作用を正確に記さなかったとして起こされた訴訟)です。

ロイター通信がスクープした内容は、大雑把に言うとメルク社がプロペシアの副作用を調べる臨床試験の結果を「都合よく解釈」もしくは「正確に反映せずに」公表したということがメルク社内部の人間の証言によってわかったというものです。こうした不正確な副作用の情報しか提供しなかったため、多くの人がプロペシアという薬を過信することになった、というのが具体的な不利益として読み取れるわけです。ロイターは非公開になっている裁判資料(メルク社が訴えられている裁判での証言など)を独自に入手して記事を組み立てています。

例えば、この記事の中で資料として掲載されている裁判のくだりでこんなものがあります。ちょっと引用してみます。

 
 

Q. All right. So you knew internally that if these sexual adverse events were prolonged or lengthened or never went away, that that would be something that would impact sales in a negative way.
Right?

MR.MORROW: Objection.

A. Yes.

 
 

これは、1998年から2001年までマーケティングを担当していた責任者の証言です。「Q」となっているのが裁判官の質問で、「A」がその責任者の証言です。途中に挟まっている「MR.MORROW: Objection.」というのはおそらく弁護士による「異議あり」だと思います。裁判官の質問に対して「異議あり」と遮ぎろうとしているのが目に浮かぶ光景ですね。「Objection」というのが「異議あり」の意味です。

ここで、書かれている裁判官の質問を要約すると「プロペシアの性的な副作用が長引いたりもしくは消えなかった場合、そうした副作用がセールスに与える影響を意識していたか」ということです。もし仮に副作用が長く続くものだったり、ましては服用を停止した後も続くものであるとしたらそれは当然使用自体を躊躇する人が多くなるに決まっています。このマーケティング担当の責任者の解答は「Yes.」です。製薬会社も商売なんだから当たり前の話だろうということになるかもしれませんが、このセールスに対する意識というのは薬の場合本当に「ヤバイ」ことになるというのが、このロイターのスクープからは見えてきます。

ロイター通信のスクープの内容をもっと具体的に見てみましょう。

臨床試験を離脱した人数を含めず、服用停止後も続いた副作用についても触れていない

メルク社はプロペシアを販売した際に臨床試験から得られた副作用のデータを当然公表しています。そして5年かけてさらに臨床試験を重ね、2002年に副作用に関する情報を修正しています。この修正にいわゆる製薬会社の「都合」が入った可能性があると、ロイター通信のスクープは教えてくれます。核心部分はおそらくここになります。英文を引用してみます。

 
 

The label, as revised in 2002, omits the experiences of nearly all of those men, reporting only on sexual dysfunction in men who took Propecia in the first year of research and in those who took it continuously for all five years. Merck didn’t include the experiences of men who finished the study before the fifth year or who were given placebo doses earlier in the study. The revised label also omitted information about six men who dropped out of the study during the final three years due to sexual side effects.

 
 

まず「omits the experiences of nearly all of those men」となっている部分は副作用を訴えた23名に関してその内容を2002年の改定の際に反映していなかったということです(23人という数字は前文にて出てきます)。

「Merck didn’t include the experiences of men who finished the study before the fifth year or who were given placebo doses earlier in the study. The revised label also omitted information about six men who dropped out of the study during the final three years due to sexual side effects.」というのは、5年を待たずに臨床試験を終えた人のデータを含めず、さらにプラセボ群も含めず、試験の最後の3年間に副作用が出たために服用を中止した6人も同じようにデータに反映していなかったということです。

僕は臨床試験で得られたデータの取捨選択がどのような形でされるのが「常識」なのかもちろん知りません。こういうことに驚いている方が「非常識」なのかもしれません。ただ、少ない人数とは言え副作用の訴えを意図的に反映させず、事態をマイルドに見せるやり方が、「常識」なのだとしたらそれは本当に恐ろしいことだと思ってしまいます。

そして、こういう恐ろしい話にもつながってきます。

注目すべきなのは、服用後に続く可能性がある副作用

以前ポストフィナステリドシンドロームというのが問題になっているということを別の記事で紹介しました。フィナステリド(プロペシアの薬剤名です)の服用を停止した後でも勃起不全や性欲減退、ひどいものとして自殺企図が持続する症状のことです。

このポストフィナステリドシンドロームというのは医者によっても見解が分かれているようです。僕はその存在自体を否定的に見ている意見も目にしたことがあります。特に自殺企図などの精神的な副作用のすべてをプロペシアのせいにするのはおかしいという意見は本当に多く目にします。そもそも臨床試験の結果でそのような事実がないというのがその意見をもっともらしくしてきたところがあるようです。ただし、今日見てきたように、その「事実」自体が製薬会社の売りたい気持ちを汲んだものだったとしたら当然話は違ってきます。

記事を読むと、副作用によって臨床試験を脱落した6人のうち1人は服用停止後66日間、症状が続いたという事実もまた副作用のデータから削除されていたそうです。

さっき「プロペシアの性的な副作用が長引いたりもしくは消えなかった場合、そうした副作用がセールスに与える影響を意識していたか」という質問を裁判官がしてマーケティング担当の責任者がそれに対して「意識していた」と答えたくだりを紹介しました。これはこうした「事実を意識した」うえでの裁判官の質問だったと読み取れます。

つまりこの質問は「プロペシアの服用の停止後にもなお続く副作用」が確認されていたにも関わらず、それをはっきり記述していなかったのは、セールスに対する影響を考えてのことなのか、と聞いているとも取れるということです。このロイターの記事を俯瞰してみるとそうなります。

ロイター通信の記事はスクープした元の資料を全て掲載しているわけではないので、記事の文章によってしか推し量ることができません。また僕自身の英語力が心もとないところもあります(TOEIC930点です)。あなた自身が「Court let Merck hide secrets about a popular drug’s risks 」とグーグルで打ち込んでハゲ・薄毛界隈では本当に重要な意味を持つこのスクープを確かめてみてください。

怖いのは「症状」に対して薬を使っているという事実

プロペシアのジェネリック薬は日本でも認可されていて、その副作用のデータをきちんと確認できます。副作用の発症率自体が比較的低い薬だということはどうやら事実のようです。そうなれば多少の冒険をしても髪を取り戻したいというのが人情かもしれません。

今日紹介した記事は2019年のものです。その時点でアメリカのプロペシアに関する裁判は1100以上も起こされているそうです。またFDA(アメリカの厚生労働省のようなところです)に報告された副作用は2009年から2018年の間で5000件を超えるそうです。そのうち約350人は自殺企図を訴え、実際に自殺した人は約50人です。ちなみに全米で起こされている裁判の訴えの内容は「薬の副作用の内容とまたその期間についての警告が適切ではなかった」というものです。

プロペシアを服用している人数からしたら微々たるものなのだから大げさに考えないほうがいいというのもまた意見です。ただ男性型脱毛症のメカニズムは完全にはわかっておらず、単に前立腺薬から転用しただけのフィナステリド(商品名がプロペシア)の副作用は人によってどう出るかはわかっていません。しかも製薬会社によってデータ自体が改ざんされていたということです。こうなってくるとほとんど宝くじを引いているようものだと僕には思えてしまいますが、どうでしょうか? 当たりが出ればいいですが、外れて深刻な副作用に見舞われたなんていうことになったらその後の人生設計に影響を与えるような話になってきます。

少なくとも疾患ではない男性型脱毛症という単なる症状に対して薬を使っている事実は決して軽んじて考えるべきではないと僕は思います。

 
 

 
 
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